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"Sehe ich recht ?"
コラム

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挿図1 ZAnPon Rampant Ram 2006年、22×18cm、紙にミクストメディア、justcomplex蔵

 先日、仕事で取引先の銀行からあるプレゼントを頂いた。といっても銀行のオリジナル袋。支店長のK氏曰く「いやぁ、うちもねアートに力を入れようと思って。やっぱ、アートですよ。これからは。-さんもアート知っとかないと」。種を明かしてしまえば、りそな銀行と大阪のラジオ局FM802が共同で立ち上げているプロジェクト《REENAL》の一環で配っている紙袋にZAnPonというアーティスト(図1)が取り上げられているのだ。どうやら、期間ごとに取り上げるアーティストが代わり、彼ZAnPonは第11回目。





パッと見た感じ、明るい色彩使いと線の多用から表象されたものに動きを感じ「ポップ」という表現が浮かぶ。人物の輪郭が明確に見られないにも関わらず、どことなくアニメキャラクターがいる印象を受けてしまう。おそらく近年の村上隆Mr.らに代表される、いわゆるアニメとオタクの文化領域に馴染んでしまった観点からどうしてもこのZAnPonの作品を見てしまう。特に後者、Mr.《志木駅から15分》《ビックリ斎藤》(図2)等に見られる、主題の位置を占める人物ならびに建造物の鮮明な(明彩色でなくともよい)色彩と背景の暗い色彩の対比。
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 挿図2 Mr.  ビックリ齋藤 2004年、53×65cm、カンバスにアクリル、東京、小山登美夫ギャラリー蔵  

ドイツの美術史家ハインリッヒ・ヴェルフリンによれば、明確な輪郭を持つ線は対象を摑みたいという作者の意思の表れであるが故に触覚的であると(※1)。つまり、ヴェルフリンの理論を敷衍すると、アニメーション等に見られる人物描写、情景描写は対象に対する距離の縮小と一体化の希求が表象されていると言えはしないか。

さてZAnPonに話を戻そう。彼の場合はより複雑に見える。Mr.で見られる主題を占める対象が見当たらない。しかしながら、色彩という点にスポットを当ててみると、多くの作品において背景がほぼ白地のためより線性が際立つ。対象が何かよく分からないにも関わらず。しかもそれが当てはまるのはReenalで用いられた作品のみで他の作品(大阪のFMラジオ局「FM802」が行っているアートプロジェクト《digmeout》で鑑賞可能)では線を必要としていない。色彩が画面上に拡散し、むしろマネスーラールノワールらの印象主義のような網膜を突き通す光さえ感じる。背景の白が、線のない色彩を際立たせ触覚から視覚による「印象」へという変化。

これが作者の造形心理においてオプティミズムに支えられているとする。「充溢した心の光」の放射として色彩の鮮明さは解釈できるかもしれないが、伏線でアニメというサブカルを張っておいたので、オタクの人々に失礼を承知で、むしろ翳りとしての表出と解したらどうか。おそらく表現主義のような不気味さが漂うものとなってしまう。
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 挿図3 George Grosz(ジョージ・グロス) Widmung an Oskar Panizza(オスカー・パニッツァに捧ぐ) 1917-1918、Stuttgart (シュトッツガルト) 、Staatsgalerie(州立シュトッツガルト美術館)

ドイツの敗戦後の退廃という現実への激しい拒絶を示したジョージ・グロス《オスカー・パニッツァに捧ぐ》(図3)の荒唐無稽さはどうか。色彩の鮮明さや明るさは確実に感じられないが、視覚上のプロポーションのみに回収されない色彩の強度が赤を基調として遍く感じられる。ここまで激しくないが、ZAnPonの線の遠心的な傾向と色彩の充実は表現主義と印象派の調和とも言うべきか。古典的解釈に沿うと、こんな感じでZAnPonの作品が私には見えた。

どうよ、Kさん?これでも「知ってる」ことになりますかね?

 ※1…Wolfflin, Heinrich. “Kunstgeschichtliche Grundbegriffe : das Problem der Stilentwicklung in der neueren Kunst ”, Basel, Schwabe, 1948(訳:ハインリヒ・ヴェルフリン著 『美術史の基礎概念 : 近世美術における様式発展の問題』、海津忠雄訳、慶應義塾大学出版会、2000年)
by art-drops | 2006-11-01 00:30 | レポート
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