レポート text:金子きよ子 最後に、2度訪れた作品について。 ラニ・マエストロというマニラ(フィリピン)出身の女性アーティストの作品で、吐く息をテーマにしている『Higugma(Breath.息)』という作品だ。 築100年になろうかという古い長屋の1階と2階の壁一面に、蝋燭の炎から立ち上がる煤(スス)によって和紙に描かれた抽象画のインスタレーション作品が立てかけられている。 ボランティアの女性の解説によると、彼女は血のつながらない母に育てられたという。しかし、親子は非常に仲がよく、まるで水墨画のようにも見える淡い色調の作品にはうっすらと、しかしびっしりとフィリピン現地の言葉で『愛している・信頼している』といった意味合いの言葉が描かれている。 エピソードを聞いて、余計に心に沁みたその作品にもう一度会いたくて、帰宅する日、再度長屋を訪れた。 たまたま運が良く、他に客はおらず、作品と一対一で向き合ううち、昨日観た印象と何かが違って見えることに気がついた。 昨日は、優しい、暖かさとかぬくもりを感じたのだが、もう一度訪れたとき、そこには何か優しさだけじゃない強さと厳しさと、そして、『意思ある愛』のようなものを感じたような気がした。 まるで、温かくて居心地の良い温泉が恋しくて、もう一度温泉に入りたいと訪れた私に、『今目の前にある現実に向き合いなさい』と厳しく、しかし、愛情を持って、そっと肩を押してもらったような気すらした。 作者が何を思って作品をつくったか、私は深く理解していない。 しかし、一方で、一つの作品を媒介として、現時点での自分自身と深く向き合うきっかけを貰っただけでも、今回の混浴温泉世界を訪れて良かったと心から感謝した。 今目の前にあることに向き合う。 それは、今私がもっとも強く望んでいることなのかもしれない。
by art-drops
| 2009-06-09 12:40
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