「直線か円環か積層か」八木良太展
レポート

c0103430_88597.jpg「作品をつくればつくるほど、時間は戻したり進めたりすることができる気がしてくるんですよ」。
時間をテーマとした作品をつくる八木良太氏は、時間についてこのように語る。
なんだかロマンチックで、とても楽しそうな作家の姿を見て、そんな風にさせる作品とは一体どういうものか、非常に興味がそそられた。

図1:八木良太「INFOPAGE」 (2007年) ミクストメディア
映像は「VINYL.(Book)」(2007年)本




今回の個展で特に気になった作品は「INFOPAGE」(図1)である。これは真っ白な本の任意のページをひらくと、ページの右上に小さく刷られたバーコードをバーコードリーダーが認識し、その読みとられた数値でムービーを指定する、という動画像選択システムで、それに伴い音も流れる。

本は2冊用意されており、1冊は氷のレコード盤から音が流れる作品「VINYL」(注1)を映像化したものを1ページ1分ずつ流した、「VINYL.(Book)」(2007年)。音はクラシックの音楽で、ページをパラパラめくると先ほどより少し溶けたレコードの映像と音楽の後半部分を確認できる。逆に前のページへ戻すと元の形状のレコードと音楽の前半部分を伺える。
これはCDやDVDプレイヤーのチャプター機能を使い自由な順番で聴いたり観たりするのと同じことをしているとも言えるだろう。しかし、なんだか感覚が違う。

その理由は“氷のレコード”を使っているせいだと思った。溶けて無くなる氷のレコードから流れ出る1音1音は、もう2度と聴くことはできない、と無意識に思わせる。無情にすぎていく時間の流れをまざまざと表現しているようだ。だから、映像や音楽よりも、時間が経過したこと自体に意識が持っていかれたのではないだろうか。そして、それは自分の手でページをめくって感じたことなので、八木氏が語ったよう、もしかしたら時間を戻したり進めたりすることはできるかも、という不思議な感覚に陥ったのだろう。

もう1冊用意されていた本、「Time Based Book」(2007年)は、新幹線の窓から見た流れる景色や海の波が漂う様子など、八木氏が実験的に撮影したものであった。八木氏は、こちらの映像に関しては特にこだわりは無いという。むしろ、この作品を観て興味を持ってくれた他の作家と将来コラボレーションしてみたい、と教えてくれた。これまで、作品をつくりながら新たな発想や想像が生まれて作品を作り出してきた八木氏だからこその新たな試みだと思った。


今回、八木氏の作品を観たことで、たまには時間について考えるために時間をつくるのも良いかな、と感じた。自分自身、時間を戻したり進めたりすることへ興味と欲求がかなりあったと分かったからだ。
もし、日々充実した時間ばかりを積み重ねていたなら、こんなにも関心を持たなかったかもしれない。しかし、それはなかなか無理そうだから(笑)、たまには立ち止まって、八木氏の作品を思い出しながら時間について考えてみたい。



c0103430_882163.jpg 八木良太「MOMO」(2007年)レコード
右のレコードの作品は、ミヒャエル・エンデ作「MOMO」を朗読した音声の再生と逆再生を何度も繰り返し録音したもの。これは、同作品に出てきた「さかさま小路」という、成すこと感じることすべてが逆向きの世界観に影響を受け形にされた。レコードを普通に再生すると何を言っているか分からない逆再生部分に何度も出くわすが、レコード自体を逆再生することで意味不明だった箇所の言葉を把握することができる。つまり、“さかさま”再生をすることで、ようやく話全体を理解できるという作品である。



注1:「VINYL」とは
2006年に八木良太氏が無人島プロダクションで発表した作品で、レコードの溝をシリコンに型取り、それに水を入れて凍らせ、氷のレコードをプレイヤーでかけ、溶けていくさまによって時間を感じさせた作品。



「直線か円環か積層か」八木良太展
会期:2007年8月22日(水)〜9月22日(土)
  ※木・金・土曜日、11:00〜19:00
会場:無人島プロダクション
>>詳細

「クリテリオム70:八木良太」
会期:2007年8月18日(日)〜10月14日(日)
会場:水戸芸術館現代美術センター
>>詳細
※クリテリオムは、ラテン語で「基準」を意味し、若手作家の新作を中心に紹介する企画展です。
[PR]
by art-drops | 2007-09-08 14:00 | レポート
<< 尾角朋子 trace展 「明日の神話」岡本太郎 >>